高山村の平飼い卵-むらたま- 代表 村内倫子さん
2024年12月、長野県にある”高山村の平飼い卵 むらたま”を訪問しました。
「むらたま」は、アニマルウェルフェア(動物福祉)に配慮した平飼いを始めて6年目の養鶏農家さんです。北アルプスをのぞむ自然豊かな信州高山村にて、鶏本来の習性を尊重しながら、一羽一羽を大切に飼育されています。エサは米や雑穀、野菜や湧き水など、高山村近隣の資源を最大限に活用し、質の良い鶏糞は畑へ活用する等、地域に根ざした循環型の取り組みの中で養鶏を行っています。
今回、現地で「むらたま」の生産者である村内さんに農場を案内していただき、貴重なお話を伺うことができました。
むらたまを始めたきっかけ
村内さんは元々養鶏農家ではなく、別の仕事をしていました。仕事に没入しすぎて食をおろそかにし、体を壊してしまった際、食の大切さを痛感されたそうです。ストレスを減らして食を大切にする暮らしに移行したいと思い、2016年に自然豊かな長野県高山村へ移住しました。
ご縁があり、鶏(ヒヨコ)30羽の飼育を任されたことがきっかけで養鶏への道に進みます。もともと鳥が好きで、幼少期に小鳥を飼い、小学校の鶏小屋では餌やりや卵取りをしていた経験から、村内さんにとって鶏は身近な動物だったそうです。
鶏を飼育する中で、鶏の犠牲の上に安価な卵が実現していることを知り、鶏のストレスを減らして食を大切にすれば健康に育ち、そうそう病気にはならない事に気づいたそうです。元気な鶏は元気な卵を産み、その卵で人も元気になる。「良い卵は良い鶏から」という考えが村内さんのモットーです。
また、鶏を育てる中で、地域の方々から古米やくず米、雑穀、大根葉などの野菜やはねだしリンゴ等、餌になるものをいただいた際には、卵で返礼。近隣の無農薬栽培の野菜農家さんからは鶏糞を、高山村のワイナリーからは赤ワインの澱下げに卵を使いたい、と申し出があったそうです。このような経験から、平飼い養鶏が地域内の良い循環を作り、自然環境を守ることにも繋がると思ったそうです。
2019年、鶏の飼育環境、餌の内容をできる限り理想的なものにし、自然環境に配慮しつつ、自身が納得できる卵を提供していこうと決意し、「循環する自然養鶏 高山村の平飼い卵 むらたま」を開業されました。
農場概要
■飼養環境
・平飼い (1m²あたり2羽、地鶏の基準は1m²あたり10羽以下)
・屋外での放牧
・鶏舎内には、鶏の重要なニーズを満たす止まり木、産卵箱、砂浴び場が設置され、自然な行動を促す環境が整備されています。
■食餌と水
・主に地域の未利用資源を活用した自家配合の発酵飼料(糠と穀物を主体とする)を給餌
・地元の野菜、豆類、鰹節など
・カルシウム源となる牡蛎殻粉(広島県産)
・天然の湧き水
■品種
純国産鶏「あずさ」
■羽数
60羽 (来年120羽、3年後300羽を目指す)
視察内容
■鶏舎環境
・鶏舎内は、一般的な養鶏場に特有の臭気がほとんどなく、もみ殻や落ち葉、発酵飼料が混じった床が発酵熱を発しているため、暖かく快適な環境
・発酵した床が鶏糞と混ざり合って更に発酵し、暖房効果だけでなく消臭効果も発揮
・鶏糞と混ざり発酵した床材は良質な肥料となり、畑で使用される循環型農業を実現
近隣の無農薬栽培農家さんへ野菜の返礼としてお渡しする他、抗生物質など薬剤フリーの鶏糞を求めている方へ販売も行っています。
■鶏の状態
・羽は綺麗で肉付きも良く健康的
・今期、試験的に4か月齢の大雛を導入したところ、一部の個体に消化器系の不調や軽度のつつき行動が観察されたとのこと(通常は雛から導入)
・雛から育成し雄鶏を導入することで鶏群内の順位が安定し、これらの問題は解消される見込みとのこと。今後は従来通り、雛からの導入を行う方針。
・止まり木の活用や、地面をつつく行動等自然な行動が見られた。
■放牧場
むらたまの取り組み
■鶏の譲渡
一般的には1歳~1歳半で廃鶏となりますが、むらたまでは約2年で引退となります。引退後も産卵率は下がりますが卵を産む為、庭先養鶏として飼いたい希望者(近隣に住んでいる方)に譲渡をしています。(これまでに16家庭へ97羽の譲渡)飼育初心者には飼育指導や餌の提供も行っています。「子供の食育」や「ペットが卵を産んでくれたら嬉しい」などの動機で飼い始める方が多いそうですが、飼い続けるうちに鶏にも個性があること、家畜の命、大規模養鶏場の問題など様々な気づきがあり、飼って良かったという声をたくさん頂いたそうです。
飼育できるような環境に住んでいないと経験できることではありませんが、庭先養鶏という形は一般の方が養鶏の理解を深めることができる良い取り組みだと感じました。
■むらたまの卵を使用した卵加工品
・プリン(販売時期はSNSで発信しています。現在、高山村のみで販売中、ネット販売は2月頃再開予定です。)
香料や保存料不使用、卵本来の優しい味が感じられるプリンです。
販売時は、オンラインショップ ピカチェから購入することができます。
・オムライス
高山村にある「ワイン&カフェ ヴェレゾン」にて、むらたまの卵を使用したオムライスやプリンを提供しています。視察の際にお邪魔させていただき、美味しく頂きました。
他にもフィナンシェやカヌレなどにも使用されています。
■ワインへの活用
伝統的な赤ワイン製造では澱下げ(おりさげ)という工程に卵白が使われます。高山村にあるワインナリーの中心となる「信州たかやまワイナリー」では、数種類の赤ワインの澱下げ過程でむらたま卵の卵白を使用しているそうです。
・澱下げとは
卵白に含まれる蛋白質のアルブミンがタンニンに作用して澱として沈殿します。
その上澄みを移すことでワインを清澄化することができます。
残った卵黄を有効活用するのに生まれたお菓子がフランス、ボルドーの名物カヌレです。
助成を受けての活動
■鶏舎の屋根の補修工事
鶏舎は古い納屋を改修したもので、一般の鶏舎に比べて土台がしっかりしており、獣の被害はありませんが、改修時に屋根を直す予算は取れなかったとのこと。
助成金で雨漏りしている鶏舎の屋根の補修工事を実施しました。
■パンフレットの制作
以前より販売している商品のチラシはありましたが、動物福祉とはなにか?むらたまのこだわりについて広く知ってもらえるように、啓発も兼ねたパンフレットを制作されました。
村役場や卵の卸先等関係各所やクラウドファンディング実施時に配布されました。
今後について
経営を成り立たせるために、現在の60羽から来年は120羽、ゆくゆく300羽に増やしていく予定とのことです。平飼いは手間と時間がかかる為、羽数が増えるにつれ働き手の確保や教育も必要となります。また、生産が増えるに伴い、さらなる販路の拡大が必要であり、何より一般消費者の理解がとても重要です。
代表の村内様よりメッセージ
「循環する自然養鶏 高山村の平飼い卵 むらたま」代表、村内倫子です。
このたびは、JAC様の助成により、鶏舎屋根の補修とパンフレット制作ができました。ありがとうございます。
冬の日の早朝、これを書いています。そろそろ夜明け。明るくなる頃、エサの準備を始めます。わたしの姿が見えると、鶏たちはいっせいに鳴いて催促。鶏舎に入ると足元にまとわりつき、歩けないほどです。近くに来られない弱いトリが、止まり木から精いっぱい首を伸ばし、「わたしはここ!」と主張します。大騒ぎの中エサをまくと、急に静かになって朝ごはんタイム。熱心にエサをついばむ皆を見回し、しっかり食べているか、調子のよくないトリはいないか、チェックします。
一羽一羽を大切にする養鶏は、とても手間がかかります。価格を上げざるをえず、それでも採算が合わないため、続けて行くのが難しい飼育方法です。開業して5年半、いまだ黒字化できていませんが、おかげさまでJAC様はじめ、ご理解くださる方々が少しずつ増え、皆様の応援が励みになっています。
養鶏を始めてから、たくさんの気づきがありました。この命は、他の命によって生かされていること。動物、植物、菌類、、土も水も、地球すべてが繋がっていること。自分は循環の中の一部であること。
より良い循環をつくり美しい地球を遺せるよう、ささやかではありますが、鶏たちとともに実践してまいります。
ご存じのように日本の多くの鶏たちは、太陽すら見られません。
幸せな鶏を増やすため、ぜひお近くの平飼い卵を応援いただけたら幸いです。
むらたまのSNS
ホームページ https://muratama.takayamamura.net/
オンラインショップ https://picache.biz/#
Facebook https://www.facebook.com/muratama2019
Instagram https://www.instagram.com/muratama2019/
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