日本のタンチョウの現状
日本のタンチョウは、江戸時代までは北海道の広い地域で繁殖し、冬期には本州に渡る個体もいました。明治初期になると乱獲や生息地の開発により個体数は激減しました。1950年代から給餌等の保護活動により徐々に個体数が回復しましたが、生息地は北海道東部に限られていました。その後、2000年代に入り北海道北部、そして西部へ繁殖地を拡大してきた一方で、100年以上定着していなかった地域に分布が広がったことで、人との斬轢が起き始め、タンチョウの存続に関わる問題が起きています。
また、北海道に生息するタンチョウは多くの個体が東部に集中して越冬しており、鳥インフルエンザ等の感染症が発生すると個体数が激減するリスクがあります。
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一般社団法人タンチョウ研究所について
上記のような問題を解決し、道央圏でのタンチョウ保全を促進するためには、正確性や客観性を考慮した調査や情報収集が必須であり、それらを実行できる団体が必要とされており、2019年に一般社団法人タンチョウ研究所が設立されました。地域で活動している個人・団体と協力し、調査・情報収集を可能な限り行い、なおかつ、それらを用いた分析結果等に基づきタンチョウ保全策の検討・提案を行っています。そして人との共存を図りながら、タンチョウ個体群の自然状態における存続可能性を高めることを目指しています。
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現在の活動目標
鳥インフルエンザ等の感染死による個体数激減リスクを低減させるために、北海道のタンチョウ生息地の分散化を促進しようと、現在以下について重点的に取り組んでいます。
・道北やオホーツク地方で繁殖している個体群が越冬できる場所を創設することにより、釧路地域での越冬地における集中化の緩和を目指す
・近年では道央圏にまでタンチョウの生息地が広がってきているため、この地域での個体群サイズが大きくなるように生息地環境を保全し、将来的には越冬期に本州に渡る個体群の創出を図る
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環境省の保護増殖事業
環境省の保護増殖事業における請負業務として、道央圏における繁殖状況調査(一部道北を含む)(2020-24年度)と越冬状況調査(2020-24年度)を行っています。また、環境省の生物多様性保全推進支援事業として、2022年度から3年度に渡り「北海道十勝地域タンチョウ越冬地分散推進事業」を行っています。代表理事の正富欣之さんは、分散行動計画見直し素案作成ワーキンググループの委員(2021-22年度)・タンチョウ生息地分散施策検討ワーキンググループの委員(2024年度)として、また、特別顧問の正富宏之さんは、タンチョウ保護増殖検討会の委員として長年タンチョウの保護に携わっています。
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助成金を受けての活動
①繁殖状況調査の実施
JAC環境動物保護財団の助成金では、オホーツク地方におけるタンチョウの繁殖状況と越冬地ポテンシャルの検討を実施しています。
2024年4月、軽飛行機を用いてオホーツク地方における営巣状況調査を行いました。タンチョウの繁殖状況調査については、湿地にある巣を見つけなければなりません。地上から巣を探すのは難しいので、軽飛行機を用いて広域的な調査を行います。
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上空からタンチョウを捜索し、発見時に防振双眼鏡を使用して個体の確認をしました。また、デジタル一眼レフカメラで巣や個体、および、その周辺環境を撮影することに成功しました。結果として、21 巣を発見し、成鳥か亜成鳥かは不明ですが 2 羽で行動していた番いと推測される 2 組を確認しました。また、撮影時に転卵等で就巣個体が巣上に立っていた 3 巣については、すべて 2 卵であることが分かりました。
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➁営巣状況調査によって確認された巣の UAV 調査を実施
軽飛行機を使用した調査で発見した巣について、ドローンを飛行させることができる場所で調査を行った結果、21 巣のうち 8 箇所で営巣後の状況を確認しました。また、4月の調査時に個体を確認できなかった 3箇所で、成鳥・亜成鳥不明の 2 羽が一緒に行動していることも調査で分かりました。
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今回の調査によって、オホーツク地方でタンチョウ保全を促進するための一歩として正確な繁殖状況を確認することができました。今後は、これらの調査結果を用いた分析結果等に基づき、タンチョウ保全策の検討・提案を行う予定です。
代表理事の正富欣之様からのメッセージ
1982年にオホーツク地方でヒナ連れのタンチョウが目撃され、繁殖が確認されました。しかし、継続して繁殖が確認されることはなく、この地方での繁殖は2000年近くまで途絶えていたようです。その後、この地方の繁殖期の個体数が増加しかけた2002年に、番いと推測される2羽のタンチョウが殺虫剤で中毒死しました。そのため、繁殖個体が順調に増加していくことはありませんでしたが、2015年には5巣が確認されるまでになりました。この地方において2016年以降実施されていなかった軽飛行機を使用した繁殖状況調査により、2015年と比較して4倍以上の巣が確認されました。この間、番い数が順調に増加し、繁殖地の分布拡大が起きていたと思われます。繁殖個体数の増加が確認されたことにより、オホーツク地方における越冬個体群確立の実現性を検討できるようになりました。
▼一般社団法人タンチョウ研究所のホームページはこちらから
https://www.tancho.or.jp/
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