江東ねこの会代表 宮路様

先日、江東区を中心に猫の保護活動を行うボランティアグループ、『江東ねこの会』が運営する譲渡型保護猫サロン「もんにゃか」へ訪問しました。

ボランティアメンバーで構成される江東ねこの会では、各メンバーが得意分野を活かしてアイディアを出し合い、新しい取り組みに挑戦しながら活動を継続されています。今回は具体的な活動運営の工夫について詳細に伺いましたのでご紹介いたします。

 

江東ねこの会

江東ねこの会は、人と猫が豊かに共生する地域社会の実現を目指して、不幸な猫を増やさないための活動や、飼い主のいないねこの適切な終生飼養をサポートする活動を行っています。

2016年6月5日に江東区福祉協議会の江東ボランティアセンターにボランティア登録し、2020年10月に永代橋にシェルターをオープン。その後、2022年7月23日に譲渡型保護猫サロン「もんにゃか」を移転オープンし、飼い主のいない猫の保護、譲渡活動を行っています。

23年度助成金で制作された、活動紹介パンフレット
シェルター、譲渡会、地域のお店に設置をしています。

譲渡型保護猫サロン「もんにゃか」

「もんにゃか」には常に10~20頭の猫がいます。
保護されている猫は色々なところから、様々な事情で来ています。

毎週土日、14時~18時で譲渡会を開催しています。(状況によって予告なしに終了する場合があります)
もんにゃかは保護猫たちに新しい里親を見つけるための一時保護飼養をする治療・譲渡・馴化のための重要な拠点です。

このタペストリーとロゴは、協力企業が制作してくれたそうです

譲渡のためには人馴れがかかせません。猫が人馴れしていないのは人への恐怖心があるからです。人馴れがゆっくりな子は「なかよし大作戦」と称して重点的にちゅ〜るをあげたり、撫でたり、遊んだりします。そうして人馴れが進んだ猫たちと適正飼育・終生飼育を目的とした愛情豊かな家族のマッチングを行い、脱走対策を施した上で適切な譲渡、アフターサポートを行います。

もんにゃかは、猫飼育経験の有無に関わらず、飼い主のいない猫たちの地域問題に取り組むコミュニティが連帯し活動する場でもあります。人馴れしていない猫と触れ合い、譲渡の過程に関わることで、責任感、思いやりといった価値観が養われ、飼い主のいない猫たち、不適切飼育の社会問題に対する理解が深まり、動物愛護意識が向上します。

地域社会の調和と発展を促進する重要な役割を果たし、動物福祉問題を未然に防ぐ未来を築きます。

もんにゃかの様子:お邪魔した時は子猫が走り回ってにぎやかでしたが、こちらは寝る時間の写真です。
預かりボランティアさん宅で保護されている猫たちの写真と説明
性別、年齢、病気の有無、性格など、細かく説明が書かれています。
ファミリーで保護されている猫たち。お母さんと5匹兄弟。
(ロビンお母さん、ベリー、ポップ、チップ、ラム、ロッキーはみんなキジトラで、他のケージもキジトラが多いので特徴で見分けられるようになるまで少し時間がかかります)

活動や運営の工夫

当日は、代表の宮路様より保護している猫について、団体運営や活動の工夫について伺いました。
SNSやアプリを活用して、以前より改善したこともあるそうなのでご紹介いたします。

①フードやトイレ砂など消耗品の調達

2年前まで、猫のお世話に必要なフードやトイレ砂、ペットシートなどの購入費用は年に約50万円もかかっていました。しかし、効果的な対策を講じることで、驚くべき変化が生まれました。

私たちは「Amazon欲しいものリスト」のリンクを、ホームページやSNSプロフィールなど目立つ場所に掲載しました。すると、全国各地からのご好意による支援が次第に寄せられるようになったのです。 さらに、我々は「Amazon欲しいものリスト」に優先度を設定し、必要とする理由、最終更新日などのコメントを随時更新する工夫を取り入れました。これによって、支援者に必要なアイテムやその背後にある理由が明確に伝わるようになりました。
その結果、消耗品の費用は以前の約1/7にまで劇的に削減されました。

これは、単なる支援の提供だけでなく、情報の透明性を大切にし、支援者との連携を強化することが重要であることを示す良い事例です。

全国からの支援で保護活動が行われています

➁支援方法の多様化による継続的な活動支援の改善

また、募金箱を動物病院、ご協力頂ける店舗に設置させて頂いたり、銀行振込に加え手数料を抑えたスポット・定期寄付が可能なSaaS(Software as a Service)を導入しました。
これにより、皆様に選択肢を豊富にご提供することで、24時間365日、遠方からでも簡単にご支援いただける環境を整えました。この取り組みにより、遠く離れた地域からでも気軽に協力していただけるため、我々の活動はより広範囲にわたる支援を受けることができるようになりました。

物価上昇に対抗できるよう、そのほかの施策も随時構築していきます。無計画に苦しい財政状況に陥いり猫に負担を強いるような状況や、突発的な支援を募ることがないよう資金の適切な管理に細心の注意を払っています。

③SNSの活用

江東ねこの会では、ウェブサイトFacebookTwitterTwitter(お世話スタッフ)Instagramneco-noteで里親募集や活動・寄付報告を行っています。

以前は代表の宮路が一度に数時間かけて更新していましたが、今ではツールごとにスタッフが手を挙げて担当がつき、随時更新できるようになりました。SNSから江東ねこの会を知ってくださる方の数が増えて、結果的に寄付金や会員の増加、譲渡、コラボにもつながっております。

④里親さんとの公式LINEによるアフターケア

猫の里親になる方の中には、初めて猫を飼う方もいらっしゃいます。何か不安なことや、問題が起きたとき、脱走対策のアドバイスで連絡をとりやすいよう、里親さんには江東ねこの会の公式LINEをご登録頂きます。トライアル期間中では定期的に様子をご連絡頂くことで正式譲渡に進んでも問題がないかを複数人の目でチェックできるようになりました。特に人馴れがゆっくりな子、先住猫がいるおうちでの新しい子のお迎えは里親へのアドバイスがかかせません。

かつては、お届けに行ったスタッフ(ダブルチェックのため二人体制)がメールかLINEグループで里親さんとやりとりしていましたが、属人化しており、返事が遅くなるときや、状況が他には分からない状態になっていました。

公式LINEでは江東ねこの会の譲渡に関わるボランティアスタッフが10人ほど在籍しており、属人化せず、なるべく早く返事ができるように心がけております。内部で意見をまとめて精度の高い集合知でお返事ができるようになりました。近場の場合、必要に応じてご自宅に伺ってサポートやアドバイスをするなど、アフターケアも行っています。

正式譲渡後の様子もご連絡頂きやすく、譲渡した猫にはみなさんが思われる以上に多くの人間が関わっており、思い入れが強くありますので、この活動を続けていて良かったと思う励みになります。
(スタッフ一同お待ちしております)

また、公式LINEは預かりボランティアと連絡をするためのツールとしても活躍しています。

黒猫きょうだいの「ゆず・かぼす」
一緒にお迎えしてくれる里親さんが決まりました。

⑤ボランティアのシフト管理、猫の健康管理

現在、所属しているボランティアさんは80名ほど。毎日のお世話はシフト制で担当しています。
ボランティア同士のコミュニケーションはSlack(スラック)を使って効率的に連絡を取り合っています。

各目的に合わせたチャンネル、猫ごとのチャンネルを用意して、目的に応じたコミュニケーションをとっております。猫の情報もチャンネルの説明に入っているので、保護経緯や医療経緯も分かるようになっています。

会の活動は万能メモアプリNotion(ノーション)にまとめており、新しく入ったボランティアがSlackに招待されるとオンボーディングURLが届き、活動内容の全体像、お世話の内容を事前学習できるようになっております。
リモートのカメラ、温湿度計、エアコン、開閉・照度センサーを使用することで問題があったときは通知が飛ぶようになっており、数分で駆けつけ、対応できるようになっております。

⑥里親希望者への脱走対策アドバイス

猫は何年家の中で完全室内飼いをしていても、油断した隙に外に逃げてしまうことがあります。江東区で2023年には、高層階からの落下による骨折事故が報告されました(猫が高階層から落下してしまう現象は「フライングキャットシンドローム」として知られています)。脱走に関する相談は年に何度も寄せられますが、探し出せるケースは早期対応が行われた場合を除いてかなり少ないです。

脱走を防ぐために、江東ねこの会では具体的な設置事例をまとめた資料を作成し、申し込み時点で、猫を完全室内飼いの厳守、玄関やベランダ、窓に対する脱走対策の重要性を伝え、お届け日までの設置してもらうようにする必要があります。お届け日に脱走対策を伝えてしまうと、おざなりにされて設置されない可能性が高いですし、そのような危険のある場所に猫を預けてきてしまうのは、かなり危険な状態です。

各家庭の家族構成、間取りは様々なため、細かいところはお届け日に相談を行い、スタッフみんなで知恵を絞っています。

脱走が起きると、多くの労力が必要とされます。周辺住民へのポスティングや連絡、目撃情報の確認などが何ヶ月にもわたって続くことになります。猫を呼んでも自分から出てくることはありません。発見に輪をかけて捕獲も非常に困難なため、捕獲を試みていたら姿を見せなくなり、ふりだしで探す所に戻ります。里親は脱走対策以上の労力、費用、時間を使うことになり、猫も、関わった人全員の心と体がボロボロになります。

猫の安全、里親たちの日常生活を守るためにも、事前に脱走対策を設置してもらう責任が譲り渡しを行う側にはあります。
※設置が難しい場合は、一律で申し込みをお断りしています。

 

今後取り組みたいこと

ケアサービスや行政との情報共有

高齢者からの急な相談は計り知れない負担があります。ケアサービスや行政と事前に情報を共有し、事前に情報共有があることでいずれ対応しなければいけない問題を余裕がある早めに解決できる体制づくり

保護状況の履歴マッピング

保護した猫たちの情報を地図上に掲載し、活動の履歴や現場の状況を可視化すること

重点活動と地域カバレッジの拡充

地図を活用して、特定の地域で重点的な活動を展開し、問題解決に集中しながら、活動の線と線をつなぎ面とすること

次世代への引き継ぎ

この活動を終わらせること。私達で終わらなければ若い次世代に直ぐバトンタッチができるように活動していくこと

 

宮路様よりメッセージ

現在の江東ねこの会は、労働世代が大多数を占めています。時間的な制約がある中でも、各メンバーが得意分野を活かし、これまでになかったアイデアや取り組みが可能になってきました。労力が分散されることで、以前は何週間も先延ばしにしてしまっていた課題にも着手できるようになったことは大きな進展です。

メンバー間では、物事の対象と個人の人格を区別し、強い発言には注意しながらアサーティブにディスカッションを進め、共同で解決策を導き出す能力が向上しています。このスキルは、情報共有を円滑にし、心理的な安全性を高め、会全体の雰囲気を前向きなものに変えました。特に、感情的な影響を受けやすい保護猫活動において、会を離れずに健全な状態で共通の目標を達成するために不可欠な要素です。これは会の活動である猫たちのためにもなっています。

先述の通り、労働世代が大半を占めていますので一人ひとりのやれることは多くなく限界があります。だからこそ、総力戦の意識で取り組んでいます。

また、預かりボランティアもですが、保護猫活動に携わる機会のなかった多くの方の参入口となり、地域に経験者が増加していることに将来的な意義を強く感じます。

■この場をお借りし下記をお願いいたします

1. 避妊・去勢を行い、脱走対策をして飼育すること

2. 余裕のない心身、経済状況で飼育を始めないこと

3. 親族が高齢で飼育を始めたら、家族で話し合って後見人を定め、安易な引取を発生させないこと

 

今回、江東ねこの会を訪問し、新しい取り組みに挑戦しながら活動運営を工夫されている貴重なお話を伺う事ができました。運営資金調達やSNSの発信、会員同士のコミュニケーション方法でお困りの団体は全国にたくさんあるかと思います。江東ねこの会での事例も参考にして頂けると良いかと思います。

江東ねこの会の皆様、宮路様、どうもありがとうございました。